彼らはしかし、保険を発行・販売するときに、彼ら自身がはじき出した生存期間表だけに基づくのはばかげている、販売前には実際にその人物に会い、彼の健康やライフスタイルを確認し、保険を発行するのか否か、プレミアムはどうするか、といったことを判断する、と議会で証言しています。
同じ時代のフランスの土木技師は、当時世界で最も高い、数学・物理・経済などといった教育を受けているとされました。 しかし、彼らはカルチャーのレベルの高さのシンボルとして扱われました。
ラテンやギリシャ文学の研究者のような立場、とでもいいましょうか。 フランス国内に鉄道を敷設するとなったとき、彼らが依拠したのは、費用便益分析(コストベネフィット分析/CBA)よりも、政治や感情的な議論でした。
メンバーに費用便益分析を確立した人物がいたというのに、です。  私たちは、科学における正確性は、多大に科学者本人が他の科学者の実験を再現できる能力や、結果の正確性を確認するための複数の手法を編み出す能力に拠っていることを忘れがちです R&D研究所の外では、このことは考慮されません。
同様に、ある四半期の財務成績の基礎となっていた諸条件を、寸分たがわず再現し、同じ結果が得られるかどうか確認するのは不可能です。 それなのに、科学を真似しようとする衝動は、非常に強いようです。
 アメリカで最初の「計算マン」は、 20世紀初頭に活躍したF・W・Tでした。 彼はサイエンティフイツク・マネジメント(科学的経営/SM)の考案者です。
ストップウオッチと定規、その他の計算機器を駆使して彼が編み出したのは、最も効率的な労働者の稼動方法で、彼の技術をもとに、組み立て工場の流れ作業が作られました。 彼はこれを「各労働者の判断の、科学による代替」と呼びました。
 つまりタイラーは、労働者を器具の一部かのようにみなして、金銭が彼らのモチベーションだとしたわけです(鉄鋼の運搬人足の目標300%増に対して60%の賃金増を立案した彼は、この賃金増は寛大だと考えたと言われています)。 しかし、 SMによる効率アップは、一般的には持続しませんでした。

労働者はこのシステムを嫌悪し、しばしば労働争議に発展しました。 人間の性格の定量化できない部分を無視したことで、 SMの精密さはかえって「不正確な」結果を残したというわけです。
1930年の「精密性と正確性の分離」は、大きなステップでした。 新法により、米国陸軍技術工兵隊(ACE)は、橋梁・土手・ダムなどの建築に、 CBAの使用が義務付けられたのです。
背景にあったのは、プロジェクトから得られる便益は費用を上回らねばならず、そうではない場合は建築してはならないというルールでした。 しかし、しばらくすると、市民やビジネスピープルたちがACEに政治的圧力をかけ始めます。
もし何かを建設させたい場合は、愚にも付かないプロジェクトの便益を並べ立て、建設させたくない場合は費用に文句をつける、といった按配です。  これらの圧力から自らを守るため、 CBAは考え得る「無形」要素を排除し、定量化可能な要素だけを抽出した、 CBAのガイドラインを発表します。
もちろんACEにとって、数字に手を加えることは可能でした。 でも、彼らにとって大事だったのは、客観性の「見た目」だったのです。
外部の人間がACEのプロセスに容易に首を突っ込めなくしたことによって、 ACEは政治的な問題を解決することができました。 そこで改めて確認されたのは、精密性が持っていたもうひとつの便益、すなわち「失敗隠しに有効」ということでした。

ダム建設でACEの判断が間違っていたとしても、それが発見されるのには長い期間を要します。 そのときには、意思決定を行った人物は、転職しているか引退しているかでしょう。
UCLAの歴史学者T ・Pは、 ACEの「客観的」定量手法は、意思決定に透明性が求められ圧力が加えられるようになった民主的環境の賜物だとしています。 投資家の行動が今までになくすばやくなっている昨今、 「コーポレートガバナンス」が同様の結果を招くのではないかという懸念は、深まるばかりです。
 もちろん、西欧諸国のビジネスピープルが「数字は客観的だ」と思う理由は、その他にもたくさんあります。 その中には、学校で教わった科学的理論に関するぉとぎ話や、 1940年代以降メジャーになった、軍隊的なオペレーションズ・リサーチの影響もあるでしょう。
しかし、夢見るCEOを美化する一方で、一般的な執行役員(CXO)たちや中間管理職は、堅実に経営したいと願うものです。 どう見ても完全無欠なものでないかぎり、 「無形」なものに基づいた意思決定に異議を挟むのは非常に容易です。
会社というものは、二つの「空想」の並存を許さないからです)。  精密性は、ビジネスにおける正確性を守るものではありません。
しかし、他からもらった情酎澗違っていたとか、より関連性のある正しい情報を得るには資金が足りなかった、といったような言い訳はできます。 いずれにしても、株主が会社の正確な意思決定を評価しない場合も往々にしてある、ということを見て行きます。
彼らはむしろ、証券会社のアナリストたちの予測がいかに正しかったかを証明できる会社を評価することが多いのです。 そして、アナリストが間違っていた場合、会社の経営者を罰したりしてしまうのです。

 精密性への執着が生み出したものが、ビジネス上の意思決定のオートメ~シヨン化です。 このシステムを作り上げたあるITコンサルタントは、これは「マネジャーの自治を統制する」方法だといって推薦しています。
まるで、 100年前のタイラーのブルーカラー労働者に対するシステムと同じです。 もう一人のコンサルタントは、信用情報(クレジット・スコア)を使ってコンピュータ上で転職希望者を落としていくシステムを作りました。
彼曰く「信用度が低かったら、人生に他にも問題が起きるということは、あたりまえのことです」その通りですねo返済するためにお金を稼ぎたいのに、転職もできないなんて。 このことは、精密性は「逃げ」に使われるということを示しています。
計測が難しい定性的な情報を考慮する代わりに、まずは質との相関性があると考えられる定量情報を求める。 そして、統計プログラムに、あなたが求める相関性を探させる、というわけです。
 某ヘッジファンドは、米国経済がサブ・プライム・ローン問題に苦しんだ2007年の夏に、高い代償を払ってこのことを学びました。 ウォール・ストリートジャーナル誌によると、損失の混乱のおおもとは、市場が混乱した期間中のコンピュータによる定量的な売買方法だと、多くのファンドが語っているとしています。
コンピュータのプログラムを変えるタイミングも、そのタイミングを無視することも、全て人間の判断に掛かっているのですが。  ビジネスは人間による行動で、正確な意思決定をしたいと思ったら、常になんらかの人間的な判断が必要になります。
でも、それじゃあ、真に「客観的」な要素はビジネスには含まれないの?財務諸表とか、会計ルールとかは?-一次節を読んだ後、この質問にあなたがどう答えるか、お楽しみに。

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